トランスアクスル 逝く | クルマ屋 奮闘記

トランスアクスル 逝く

変速機のことをトランスミッションといいますが、差動装置(デフギヤ)一体型の変速機はトランスアクスルと呼びます。
どちらの場合も十把一絡げにして通称は、マニュアル車なら単に「ミッション」、オートマ車なら「オートマ」でしょう。
何れにしてもこれら変速機の故障というのは、エンジン本体の不具合や、クーラーガス漏れトラブルなどと肩を並べて、
代替/修理をかなり迷ってしまう事案の一つ。 そこを乗り越え実際に修理着手するのは極々少数になると思います。


上の画像は、昭和62年製 いすゞ アスカ JJ120 のトランスアクスル。
そうです、前回記事と同じ車両のものです。 クーラー修理の翌年以降、事あるたびにご来店くださり、
H 20.3~22.12 までの間の主な整備履歴を列記すると、2度の車検整備、EXパイプ交換、スターターモーター交換、
製造廃止の左電動ミラー内部修理、リヤハブベアリング交換、数次に渡るフロント足回り異音修理・・・
気合入りまくりでまだまだ乗り続けるぞ!とおっしゃってました。

H 23.4 、ドライブシャフトブーツ交換+ミッションオイル交換+12ヶ月点検整備をして納車直後、
高速道路を西へ走行中に突然のミッショントラブル!?
場所は、京都から170キロは離れているであろう、中国道の美作追分PA手前だったそうです。
症状は、何の前触れも無く突然4-5速が往き来出来なくなったとのことで、すかさずパーキングエリアへ。。
まずご相談の電話を下さり、R・1234速はなんとか入り、自走も可とのことだったのですが、
場所が場所だっただけに大事をとって、積車手配で京都まで搬送ということになりました。

点検整備後、約1週間くらいしか経ってないというまんの悪さ。
しかもミッションから突き出たドライブシャフトを半脱着してますし・・・ 、ミッションオイルも替えてます・・・ 。
これじゃ誰しも、「何かチョンボした?!」って思われますよねww



症状 : 5速のみギヤチェンジ不能
ミッション本体以外の部分で可能性ある箇所というと、シフトレバー関係でしょうか。
積車搬入後、先ずそこらへんを点検してみましたが、残念ながら異常なし。。
シフトケーブル取り外しエンジン停止した状態で、直接ミッション本体部のレバーをこじてみましたが、
やっぱり5速ギヤに入りませんでした。  この時点で、ミッション内部不良の確定フラグが。 T_T

 余談になりますが、遥か昔に苦い出来事がありまして。 車検整備の一月半後にオルタネータ ( 発電機 ) が突然死。
 運の悪いことに、晩秋の冷たい雨降る夜の高速道路上での不具合、エンジンかけれぬまま立ち往生されたそうで。
 事情を聞いて即対応 ~ オルタネータとバッテリーを交換してクルマは元通りに直ったものの。。
 その長年のお得意様曰く、「車検直後に壊れるのは変だ!」、「息子は風邪を引いた!」、「整備代は払えない!」と
 感情的になってしまわれ・・・ ご説明重ねて奥さまから整備代を頂戴したのですが、以後ご縁は切れてしまいました。

 人の造ったものは必ずいつか壊れます。 点検時点で良判定でも、僅かな間を置き不良になることもままあります。
 じゃぁ点検整備なんか無駄ではないかと言われそうなんですがね。  診て触って聴いてみて、
 既に兆候表れている箇所をいかに多く見つけれるか。 それが我々整備士の仕事だと考えています。



ミッション内部不良と判明し、先ずお客様と以後の方針についてご相談をしました。
ご要望は単純明快! 「なんとか直して下さい!」 というものでしたが、と同時に・・・・・
「どこが壊れたんやろ~。直るかなぁ・・・T_T」 ともおっしゃっておられました。
心配されるのもご尤も。 決して易しからぬ事案で、最善尽くしますとしか言いようがありませんでした。
FR用の、例えばハイエースやタウンエースなど、超メジャー車種の縦置きトランスミッションならば、構造も割とシンプルで
リビルト品/中古良品どちらも玉数豊富。 修理といっても、単に載せ替えれば済む話なのですが。
それに対して、FF用の横置きトランスアクスルは差動装置も加わった上に凝縮され少し複雑。
ましてや稀少車種のアスカともなれば、載せ替えるべき代わりの品が見つかるかなという不安がありました。

案の定その心配は的中!
まず全国NETのリサイクル網で中古部品を当たってみましたが、当然のように在庫なしとの回答。
次に懇意の部品商経由で探して貰いましたが、リビルト在庫はどこも無し。 現品リビルト化も引き受け手皆無。
範囲広げてもうちょっと調べて下さいと食い下がってみましたが、日が過ぎただけで、やはり見つかりませんという返事。
それとは並行して、自分でも、京都大阪に数多く点在するリビルト業者に片っ端から連絡とってみました。
当時整備振興会の理事をしていた父の顔で、懇意の業者仲間の伝手や情報もお借りしました。
およそ半月の時間費やし出揃った結論は、何れも処置なしというものでした。 オーマイガッ。。

ここで白旗振るべきか、それとも玉砕覚悟で尚奮戦するか・・・
コスト的に、リビルト品/中古良品と交換出来る場合と、そうでない場合とでは、次元の違う話になってしまう恐れが。
更にトライするだけしてみるも、やはり頓挫し傷口広げただけという最悪のシナリオも想定しておかねばなりません。
お客様とこの点を協議する必要を感じ、再びご相談したのでありました。
この選択肢、他人事として聞くのではなく、実際自分の身の上に降り掛かり、自ら決定すると思って考えてみて下さい。
貴方ならどうされますか?

トランスアクスル内部の、主要構成パーツ単体の供給可否を調べてみました。
1~5速の各ギヤ・シンクロ、それにベアリングなど諸々の部品達は、受注生産納期不明(約2ヶ月?)とかをも含めると、
平成23年4月時点での回答は、概ね9割方はいすゞさんから入手可能。
約1割のパーツについては既に製造廃止で調達不可。
内部の破損状況がどういったものであるのかは、当然この段階では不明でした。
割れるなり欠けるなりした不具合部位が、メーカーから出れば幸いなのですが。。
万一製廃パーツとかぶって特注ワンオフとかいう話になれば、僅か1個の専用ギヤ造るのだけで数十万円?!
修理総額も一気に跳ね上がってしまうので目も当てられません。。
名誉ある撤退を選ばれても決して責められることはないと思います。 世の大半の人の答えはそうでしょう。
しかしですね、なんとこのケースでの相談結論は、突撃ラッパ! トテチテター!! 逝ってよし。 おぉ~ というものでした!



というわけで、車両からトランスアクスルASSYを降ろし、捲っても差し支えのない一番上のカバーだけ取り外して
内部の状況(欠片や粉砕粉の有無)を観察してみたのが、最初の画像の場景です。
当然のこと何らかの破片が見つかるものと踏んでたのですが、予想に反して内部状況はすこぶる綺麗なものでした。
これは・・・・・ 想定外の意表を突いたようなトラブル?! 逆にヤバイな、梃子摺るなと直感!

ここから先の分解修理は、ミッションオーバーホールを数多くこなし相当習熟したベテランに頼むのが転ばぬ先の杖。
ですが逆の立場で考えるとですね、ちゃんと直るかも分からない手間暇かかりそうな、言わばジョーカー。
縁もゆかりもない赤の他人のために一肌脱いでくれる男気ある方は、関西圏では見つかりませんでした。。 哀しい。
ですが悲嘆に暮れていても始まらないので、覚悟を決めて全国津々浦々引き受け手求めて探しまくりました!

探すポイントは、外注に出さず自社内でクロスミッション化とかをも手がけておられるような工場?
その他色んなキーワードで検索し自分の臭覚だけを頼りに、そこそこ見込みありそうな問い合わせ先リストを作成。 
あとはひたすらリストの順に直接電話しまくって経緯・状況を伝えてみるという根気の要る作業。
結果答えはNOのとこばかりな中、遂に了承してくれる先が見つかったのでありました。

神奈川県 株式会社小山ガレージ 様
レース用車両の製作メンテナンス、エンジン制御系製作、車両改造チューニング各種計測から、
エンジン・ミッション・デフなどのオーバーホール、その他多種多様な業務内容であられます。
横浜で毎年開催されている自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展」にいつも出展されておられるご様子で、
その一点だけをとってもただならぬ会社であることは容易に想像がつきます!

依頼の連絡をしたのが4月であったことも幸運だったでしょうか。
1~3月は新車登録台数の関係で、だいたいどこの自動車工場も繁忙期。
その反動で一転、4月は割と余力あることが多いですからね。
かくして不具合起こしたミッション単体は、木箱に入れられ神奈川の地へ。




オーバーホール中の風景を十数枚頂戴いたしました。 トランスアクスルの中身はこんな感じ。

この段階で全てのギヤ類の外観を俯瞰できるわけですが、やはり内部状況はすこぶる綺麗なもので、
割れなし。 欠けなし。 曲がりなし。 特に大きな摩耗もなし・・・・・ しかし実際、5速だけに入らない?!

この後、頂いた画像は、シャフトから各ギヤ抜いてバラバラにして仔細に調べてみた様子が続くのですが、
まるで間違い探しと一緒で、容易には不具合箇所が見つからない=何度か仮組みし直しては、また分解ということを
繰り返されたのではと想像します。 本当に厄介な仕事を引き受けて下さり大感謝!


では一体何がどのように壊れていたのか? 種明かしは下記の通りです。

   

5速アウトプットギヤ圧入抜け
向かいのギヤに噛みあう部分と、シンクロ機構が噛みあう部分という、異なる形状の切削加工品が合わさって
一つのパーツになっているのですが。 固く圧入され本来外れるはずのない箇所が、若干抜けかけていたのです!
新品パーツ 30.5mm 、不具合パーツ 32.0mm
約1.5mmも抜けており、これではシンクロが常に押されて邪魔する結果、5速にだけ入らないという症状呈した訳でした。
では何故唐突にこのようなことになったのか?!

注目すべきは右上の画像、
不具合起こしたギヤは左側で、内面にセレーション嵌合のギザギザ見えるのが分かりますでしょうか。
これに対して右側の新品ギヤは、手間を惜しまずその部分にしっかり溶接が施されていました。

明らかに圧入抜けトラブルの対策品。 裏を返せば、メーカーさんは全国のどこかで起こった同一症例を感知した?
ふと閃いてこのアスカ君の車体番号に注目すると、下5桁の数字は100未満=極初期車両でありました。
メーカーさんは新型車を発表後も、日進月歩、日々精進しておられるという典型事例なのかも知れません。



万難乗り越え無事納車!
あとからカレンダー見て数えると、リフト占有期間43日・・・
不動になってからだと約2ヶ月もの長きに渡りご不便かけてしまったのですが。。
何はともあれ、この記事を書き上げた今日までの約2年半、ミッション系統は何もご不満ないとのこと。
これくらいのロングスパンで結果を出せれば、この修理は成功だったと言えるのではないでしょうか♪


余談:
2013年秋、つい先月のことなのですが。
点火系統のイグナイターという電子パーツが突然死してエンジンストップ。 またもや積車搬入という憂き目に。。
スパークプラグに火花が飛んでなかったので、比較的簡単に原因特定は出来たのですが、
アスカのターボエンジン専用にノッキング制御付きで回路設計されたという、ディストリビュータ内蔵型イグナイター。
こんな唯我独尊的なパーツであるのに、問い合わせてみると既に製造廃止! 新品パーツは調達不能!!
またもや非常に興味深い記事になりそうな辛酸舐めましたが、これも無事解決♪

昭和後期のクルマでも、既に車歴は約30年近くになるのですね。
だんだんと製廃喰らいだすと何をするにも辛すぎるのですが・・・・・ そういう修理を承る時の心得としては、
視点変え、探究心で逆に楽しめるくらいでちょうどなのかもと思っています。
何はともあれ、このアスカ君はまだまだ現役快走中! もうどこも壊れませんよ! うんうん、そのはず!ww

ô